蝶と人と 美しかったアフガニスタン

蝶と人と 美しかったアフガニスタン (朝日選書)

尾本恵市「蝶と人と 美しかったアフガニスタン」(朝日新聞出版 2023年)

 

久しぶりに紙の本を最後まで読んだ。

 

この著者がかつて私の勤務先に着任された時には、すでに学界の重鎮として貫禄のあるお年であった。同じ生物学分野の研究者として多少親しくしていただいたが、学部長など役職をこなされて短期間のうちに定年で去って行かれ、深く知り合うこともなかった。その著者がまだ若かりし頃、ちょうど私が生まれた1963年に、幻のアポロ蝶を求めてアフガニスタンの山岳地帯に虫取りに行った探検記がこの本である。探検というものは現在ではもうおそらく成立しないのかもしれないが、克明に記された当時の日記から再現された「未知の土地」の「探検」の記述に、ワクワクしながら読ませてもらった。幻と言われた蝶の捕獲、新種の発見をはじめ、過去のさまざまな昆虫研究者(コレクター)たちの軌跡や、盗難に遭った貴重な蝶の標本の発見と返還の物語など、記述は多方面にわたるが飽きることがなかった。著者の前半生について知ることができたが、同僚だった頃にもっと話を聴いておけばよかったと思う。