蝶と人と 美しかったアフガニスタン

蝶と人と 美しかったアフガニスタン (朝日選書)

尾本恵市「蝶と人と 美しかったアフガニスタン」(朝日新聞出版 2023年)

 

久しぶりに紙の本を最後まで読んだ。

 

この著者がかつて私の勤務先に着任された時には、すでに学界の重鎮として貫禄のあるお年であった。同じ生物学分野の研究者として多少親しくしていただいたが、学部長など役職をこなされて短期間のうちに定年で去って行かれ、深く知り合うこともなかった。その著者がまだ若かりし頃、ちょうど私が生まれた1963年に、幻のアポロ蝶を求めてアフガニスタンの山岳地帯に虫取りに行った探検記がこの本である。探検というものは現在ではもうおそらく成立しないのかもしれないが、克明に記された当時の日記から再現された「未知の土地」の「探検」の記述に、ワクワクしながら読ませてもらった。幻と言われた蝶の捕獲、新種の発見をはじめ、過去のさまざまな昆虫研究者(コレクター)たちの軌跡や、盗難に遭った貴重な蝶の標本の発見と返還の物語など、記述は多方面にわたるが飽きることがなかった。著者の前半生について知ることができたが、同僚だった頃にもっと話を聴いておけばよかったと思う。

グレタ ひとりぼっちの挑戦

グレタ ひとりぼっちの挑戦

https://greta-movie.com



映画ドットコムで視聴

 

たったひとりで学校ストライキを始め、そこから世界的ムーブメントになり、国連の気候変動サミットで怒りのスピーチを各国首脳に投げかけるまでの、グレタ・トゥーンベリの日々を綴ったドキュメンタリー。孤独な少女が家族に見せる素顔、父親との関係、新たに得た多くの仲間に囲まれつつも、ずる賢い政治家たちにいいように利用されているという虚しさ、そしてその肩にのしかかるあまりにも大きすぎる期待と責任に押しつぶされそうになる孤独な姿に、思いを深くする。

 

彼女にこうした行動をとらざるを得なくさせた、そうした世の中を許している時点で、すべての大人たちはみな有罪であると思う。

リトル・ビッグ・ファーム

リトル・ビッグ・ファーム

理想の暮らしのつくり方



映画ドットコムで視聴。

アニマルシェルターから引き取った一匹の犬との約束を守るために、自然と共生することを目標とする広大な農場をカリフォルニア郊外に開いた夫婦の物語。自然と共生と言うのは簡単だが、かちかちの土を変えることから始まる作業は先が見通せない。指導者に従っていろいろと手を広げていく2人に次々と起こる出来事。喜び、戸惑い、怒り、途方に暮れる日々の先にたどり着く、理想の共生の形に、思ってもいなかったほど感動させられた。自然に近い暮らしを夢見る人におすすめの一本。

大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実 (光文社新書)

仲村和代・藤田さつき著
「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実
光文社新書 2019年)

名古屋出張の往復で読了。

 

大量に捨てられる新品の服や恵方巻き。そうした話題がSDGsとからめて新聞にも時々載るようになった。単なるゴミ減量の話ではなく、消費されずにゴミになるムダな生産というゆがんだ世界について、新聞記者が取材して得た現場の様子が書かれている。

なんとなく想像してはいるが、やはりそうなのか、と納得することが多く、驚くような話はないが、そのゆがんだ世界から抜けるのが難しいことに暗澹とする。もっと丁寧にものを作り、もっと丁寧に販売して、収入を減らさずにもっと幸せになれる、そういう例も紹介されているが、なかなか一般化できることではない。

苦悩しながらの取材過程がそのまま書かれているので、好感も持てるがややまどろっこしい。書き方が、というより、事態がそうなのだろう。明らかにおかしいとだれもが思いつつ、だれが悪いわけでもなく、そこから抜けられない泥沼である。それでも、抜け出す道を見つけなければならない。

教えない授業

教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方

鈴木有紀著『教えない授業 美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(英治出版 2019年)

Kindle版読了。

 

「問いを見いだし、自ら考える力」を育てるひとつの方法として「対話型鑑賞法」を紹介する本。現場として紹介されているのは小中学校など。そういう力をつけた者が大学に入学して自ら学んでくれるのが理想ではあるが、現実には大学に入ってもその力のない学生が多い。したがって、大学の教育現場でも役に立つと思い読んだ。もともと美術鑑賞の場が前提だが、他の教科でも十分使える場面がある。

 

一つの映像(視覚教材)を見て、気づいたこと、考えたこと、疑問などを話し合う(単に感想を問うより答えやすい問い方)。解釈が垣間見えたら「どこからそう思った?」と問う。このとき、「なぜそう思う?」ではなく「どこからそう思った?」と問うのが大事。「なぜ」ではその見方を示した動機を問われているように感じる。問い続けても論理性を放棄して主観に留まる恐れがある。「どこから」と問うと、感想や考えの根拠を聴くことになり、論理的思考が促される。

 

教材は、見せたいものより、見たくなるものを。また、既知のことと未知のことがバランスよく含まれているものを選ぶのが大事。また、ナビゲーターはあらかじめ自分でよく教材を見て徹底的に言語化しておくこと。

 

教師が知っている情報を提供するタイミングも大事。正解が存在していてそれを当てるような形になってしまっては意味がない。このあたりが、従来通りの講義型授業に使うには難しいところ。単純そうに見えて、教員の習熟が必要だろう。

 

 

以前から共同研究として、大学での学びを下支えするリテラシーについて同僚たちと議論をしているが、学生の多くはものを見ても見えていない、ということがよく話題になる。窓の外の風景を言語化させる、などの訓練を積まないと見えるようにならない、という話があった。そういうことと絡めると、効果的に利用できる方法のように思えた。VTS (Visual thinking strategy)というそうな。

 

リアルサイズ古生物図鑑

古生物のサイズが実感できる!  リアルサイズ古生物図鑑 古生代編

土屋健著『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』(技術評論社 2018年)

生協で購入。

 

おもしろい。よく知った(知らないのも多いが)古生物が身の回りの風景の中にいたらどのくらいの大きさのものとして存在するのか、現実風景に再現CGをうまく溶け込ませて見せる図鑑。恐竜や哺乳類などではそう意外性もないかもしれないが、カンブリア紀のバージェスモンスターズなどでは、大きさの実感がない場合も多いので、そういう点でもいい。なにしろ再現図が非常にきれい。見るだけで(ほぼ見るだけの本だが)楽しい。

スマホデビュー

これまでガラケーiPod touchWiFiルータでやってきたが、家族のスマホ更新の際に「一緒に替えたら全員安くなるから」という誘い文句に乗せられて、ついにスマホデビューした。しかしiPhoneではなくGoogleのPixel 3aというやつなので使い方がいまひとつ慣れない。結局、ガラケーを置き換えるだけで3台持ちなのは変わらないのだった。

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スマホデビュー