月は無慈悲な夜の女王

月は無慈悲な夜の女王

ロバート・A・ハインライン著 早川書房

Kindle版読了。

 読んでおくべきSF傑作のひとつとして推薦されていたので、何気なくKindleで見つけて読んでみた。今調べて驚いたが、1965年に連載されていたという半世紀前の作品なのだな。まさにクラシック。しかしそんな古くささはまるで感じなかった。

 

 ひそかに知性を獲得したコンピュータの支援を受けながら、地球連邦の搾取から独立を目指す月の植民地の人々の戦いを描いている。月での独特な生活様式、反政府活動を組織化していく過程、そしてクーデターと反撃と結末への活劇、どれも詳細で活き活きと書かれていて読み応えがあった。

 地球連邦の搾取と宇宙植民地の独立といえばまさにガンダムではないか。きっとこの古典はその後の多くのSF作品に多大な影響を与えてきたに違いない。

ねずみに支配された島

ねずみに支配された島

(ウィリアム・ソウルゼンバーグ著 文藝春秋 2014年)

 

広島大学出張中に読了。

前著「捕食者なき世界」がすばらしく面白かったソウルゼンバーグ。この本も期待に違わず大変面白く一気に読ませてくれた。

世界中の島々で繰り返される、外来動物の侵入と在来鳥類等の大量死。それに気づき、滅び行く生物たちを救うために必死に抗う人々の終わりなき苦闘の物語である。主な舞台はニュージーランド、それに加えアリューシャン列島、カリフォルニアなど各地に渡る。外来動物として問題になるのは主にねずみだが、他にもネコ、キツネなども登場する。何千万羽という鳥の大群が、わずかな数のネズミの侵入で絶滅に向かう現実が描かれる。多くの場所で手後れなのだが、いくつかの島でネコやネズミを駆逐して絶滅しかかった鳥を回復させることに成功する。しかし、一箇所で成功しても別の場所で同じやり方が通用するとは限らないし、新たな障害も発生する。関係者の苦悩が切実に感じられる。

外来種問題を書いた本は山ほどあれど、これだけ読ませる本はなかなかない。現場で必死に苦闘する人々に焦点を当てて、彼らの物語として描いている。外来種問題はそれなりに知っているつもりだったが、ネズミと鳥のことはもともとあまりなじみがなかったので勉強にもなった。

バイオマス・ニッポン

バイオマス・ニッポン―日本再生に向けて (B&Tブックス)

(小宮山・迫田・松村編著 日刊工業新聞社 2003年)

 

積ん読解消シリーズ。

今さら、だった。2002年に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」をわかりやすく解説したもの、という位置づけの本。それから15年経って、その総合戦略がどういう風に進んでどう終わったのか、もう結果は出ているはずだ。それなりに各地で進められたが、日本再生などというような目覚ましい成果が出ているとは思えない。いくら使って、どれだけの成果を挙げたのか、そういう総括は…しないんだろうな。

 

ざっと流し読み程度に読んだが、この段階でも勇ましいかけ声とは裏腹に、バイオマスを中核的に取り入れるのはかなり難しい話だということは読み取れた。国のかけ声で一斉に取り組んで、多くが失敗して淘汰され、今残っているのは条件が良く堅実なところだけなのではないだろうか。それでいいんだと考えるべきなのか。

 

地球の破綻

地球の破綻―Bankruptcy of the Earth 21世紀版成長の限界

(安井至著 日本規格協会 2012年)

 

積ん読解消シリーズ。

 1972年にローマ・クラブが出した「成長の限界」は、その当時にできる未来予測を示し、その展望で衝撃を与えたという。それから40年経ち、状況も変化し、また予測の精度も変化したことで、改めて21世紀の成長の限界を検討してみたのがこの本である。

 地球が破綻に向かっていることは誰の目にも明らかなような気がするのだが、本気でそう思って心配している人は実は少ないのかもしれない。だからこそ一国の首相が相も変わらぬカビ臭い「成長」という言葉をお題目のように唱えて、五輪だ万博だと浮かれているのだろう。

 いろいろなことが破綻に向かっているが、劇的な改善がなされなければならないのが、エネルギー、元素(主に金属資源)、生物多様性の3つであると著者は言う。まったく同感である。人口と食料の問題についてはなんとかなるだろうと著者は考えているが、私自身はやや懐疑的である。

 環境問題を教えるようになって、最初に参考にさせてもらったのがこの人の著書やウェブサイトだった。基本的なスタンスやバランスのとれた書き方がしっくりくる。勉強になる一冊だ。

ヒトはなぜ病気になるのか

ヒトはなぜ病気になるのか (ウェッジ選書)

長谷川眞理子著 ウェッジ 2007年)

 

積ん読解消シリーズ。

怪しい健康本ではない。もちろん、進化研究界隈の人なら著者名を見ればそんなことはすぐわかるのだが、上の画像を得るため検索したら似たタイトルの怪しい本が山ほど出てきたので念のため。

医学は、人がどのようにして(=How)病気になりどうすれば治るかを研究してきたわけだが、進化学は人がなぜ(=Why)病気になるかということについて一定の解釈を提供する。この本は、進化から「病気」というものについて考えるいわゆる「ダーウィン医学」についてわかりやすく書かれた入門書である。

進化本では定評のある長谷川氏のわかりやすい解説で、たぶん初心者でも難なく読めると思う。その分、その筋の者にはそれほど驚くような話はない。今回改めて面白いと思ったのは、妊娠中の母親と胎児の間に起こる親子間対立の話だった。それも含め、今まであまり人類の進化について多くを触れなかった生物学の授業で、もう少しヒトの話をするためのネタにできることがいろいろあるなと思った。

「地球システム」を科学する

「地球システム」を科学する (BERET SCIENCE)

(伊勢武史著 ベレ出版 2013年)

読みかけの積ん読解消シリーズ。

「システム」とは、要素同士のつながりを考えて全体を構成したもの。「地球システム」とは、岩石、海洋、大気、生物のつながりを重視する考え方。地球環境問題は、地球をシステムとして考えて、一つの事象がシステムを通してどこにどのように影響してくるかを考えなければ正しく理解できない、ということを説く本である。自分自身が驚くようなことではないが、どこを強調して説明しなければならないかという点では参考になる。繰り返し出てくる、正のフィードバックと負のフィードバックの図が大事だと思う。