教えない授業

教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方

鈴木有紀著『教えない授業 美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(英治出版 2019年)

Kindle版読了。

 

「問いを見いだし、自ら考える力」を育てるひとつの方法として「対話型鑑賞法」を紹介する本。現場として紹介されているのは小中学校など。そういう力をつけた者が大学に入学して自ら学んでくれるのが理想ではあるが、現実には大学に入ってもその力のない学生が多い。したがって、大学の教育現場でも役に立つと思い読んだ。もともと美術鑑賞の場が前提だが、他の教科でも十分使える場面がある。

 

一つの映像(視覚教材)を見て、気づいたこと、考えたこと、疑問などを話し合う(単に感想を問うより答えやすい問い方)。解釈が垣間見えたら「どこからそう思った?」と問う。このとき、「なぜそう思う?」ではなく「どこからそう思った?」と問うのが大事。「なぜ」ではその見方を示した動機を問われているように感じる。問い続けても論理性を放棄して主観に留まる恐れがある。「どこから」と問うと、感想や考えの根拠を聴くことになり、論理的思考が促される。

 

教材は、見せたいものより、見たくなるものを。また、既知のことと未知のことがバランスよく含まれているものを選ぶのが大事。また、ナビゲーターはあらかじめ自分でよく教材を見て徹底的に言語化しておくこと。

 

教師が知っている情報を提供するタイミングも大事。正解が存在していてそれを当てるような形になってしまっては意味がない。このあたりが、従来通りの講義型授業に使うには難しいところ。単純そうに見えて、教員の習熟が必要だろう。

 

 

以前から共同研究として、大学での学びを下支えするリテラシーについて同僚たちと議論をしているが、学生の多くはものを見ても見えていない、ということがよく話題になる。窓の外の風景を言語化させる、などの訓練を積まないと見えるようにならない、という話があった。そういうことと絡めると、効果的に利用できる方法のように思えた。VTS (Visual thinking strategy)というそうな。