カオスの縁

複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命
M. ミッチェル・ワールドロップ著「複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命」(新潮社, 1996)読了。発刊直後に買っておきながらずっと本棚に眠っていた一冊。今年前半から読み始めたものの、電車通勤の機会が減って今までかかってしまった。中盤の、複雑系研究がサンタフェで次第に盛り上がっていくあたりは興奮させられた。難しい話なのにわくわくさせられるのは、著者の力量か。要素間の単純な相互作用が要素集団全体の挙動に創発的な現象を引き起こす。相互作用の強さ次第で生じる、ほとんど動きのない静的な状態と、でたらめで無秩序なカオスの間にある「カオスの縁」において、もっともダイナミックでありながら安定に持続するシステムの状態。しかも、類似する現象が、鳥の群れにも、脳の神経細胞群にも、生命の始まりにも、市場の株価変動にも、社会の動きにも、同じように適用できそうだというこの複雑系。この本だけ読めば、すべてを複雑系で説明できると思っても不思議はない。そういう熱狂を生む力を持った本だ。やはり流行った当時にさっさと読んでおけばよかったかも。とくにコンピュータでプログラムを組んだことのある者にはとても魅力的な題材だ。
しかし、原著が書かれてから10年以上、サンタフェ研究所ができて20年、複雑系研究の果実は収穫されているはずなのだが、自分な無知なだけなのだろうか、複雑系理論によって革命的ななにかが起きたという話は聞かない。もっと最近のわかりやすい解説書を読みたくなった。