それで寿命は何秒縮む?

それで寿命は何秒縮む?

(半谷輝己著 すばる舎 2016年)

損失余命、つまりある物質などの毒性によってどのくらい期待寿命が縮むか、という尺度を使って、リスクの相対的な大きさを冷静に考えようよ、という本。以前から、環境の授業では損失余命を紹介して、化学物質汚染によるリスク(の小ささ)について話をしているので、個人的には納得の内容。で結局、タバコのリスク(1本吸うたびに12分の短縮)に比べれば、他は加工肉や残留農薬はもちろん放射線被曝だってほとんど問題にするようなものではない、というのも納得。

 もちろん、それで安心するかどうかはあなた次第ですよ、ということを著者は繰り返す。「安全」(の度合い)は客観的に数字で表せるが、「安心」は主観的なもの。誰も他人に強制はできないので、自分で折り合いをつけるしかない。その折り合いをつけるのに、損失余命というモノサシがひとつの目安になるといいね、ということだ。

 著者は「地域メディエーター」という肩書きで活動している。不安にかられた地域住民と専門家の間の知識・認識のギャップを埋める活動を意味するらしい。サイエンスライターやサイエンスインタープリターでは少しニュアンスが違うので、ということだ。肩書きは何にせよ、そうした役割をより多くの人が担えるようになる必要があるだろう。