クズ文化

 日本縦断クズ採集調査に際し、2箇所どうしてもM教授を連れて行きたいところがあった。日本のクズ文化を見せたかったのだ。
 最初に行ったのは、福岡で10代続く本葛製造専門店、廣久葛本舗。葛粉なら吉野だろうと言われそうだが、ルートの選定上こちらのほうが都合がよかった。

メールで連絡をとって行くとご主人が歓待してくださって、クズについての多くの知見をお話しくださり、また葛粉製造の工程も見せていただいた。伝統に従った非常に手間のかかるもので、大量生産はかなわない。本葛でできたくずきりと葛餅もおいしくいただきました。

50年もののクズの根

アメリカのクズも見に行かれたそうだが、向こうのクズの根は小さく、とても使い物にならないそうだ。生育環境次第で根を太らせるか否かずいぶん変わるようだとご主人はおっしゃっていた。

 もう一つのクズ文化は、静岡県掛川市の葛布である。クズの茎の繊維で布が織られていたということは今回調べて初めて知ったのだが、掛川市はこれを郷土の伝統工芸品としてうちだしている。ただ、コンタクト先として商工会議所しか見つからず、静岡通過がちょうど日曜日になってしまいまったく期待していなかったのだが、岡本葛布工房という名を入手したので、ぶっつけで訪問してみた。急なことで先方も最初はとまどわれていたが、自宅の一室に並べた作品を見せてくださった。葛布でできた屏風やシェード、壁紙、バッグやクッションなどがあり、独特の光沢が美しい。かつては地元の一大産業で、100人以上を雇用し、製品は主にヨーロッパに輸出して大いに稼いでいたという。M教授もいたく感動し、数点お買い上げになりました。


このとき話に出てきたのだが、掛川市ではかつてクズの種子を大量に集めてアメリカへ輸出していたという。その種子から作られたクズの苗がアメリカ東南部で土壌浸食防止のため大量に植え付けられたのだとすれば、移入元はここなのかもしれない。むろん他にも種子を輸出していた場所はあるかも知れないが、重要な情報だということで、近所でサンプルを採集していったことは言うまでもない。

 M教授はすでに中国で何ヶ月も調査をされてきたので、中国のクズ文化にはすでに触れていて、中国でもポピュラーなくずきりなどは食べたことがあったのだが、クズを扱うプロと直接話ができたことはそれなりの収穫だったようだ。