環境教育 善意の落とし穴

環境教育 善意の落とし穴 (クレスコファイル)
田中優 著 「環境教育 善意の落とし穴」
(大月書店 2009年)


未来バンクの田中優氏が環境教育にもの申す、となれば読まないわけにはいかないかな、と思って買った。85ページしかない小さな本。メッセージはそれほど目新しいものはなかった。みんなの心がけ、だけでは環境問題は解決しない。預金した自分のお金が何に使われるのか意識しよう。オール電化、植林、アブラヤシなどを批判的に。環境教育というならこういうところをきっちり判断できるような教育にしないと、というメッセージはおおむね同意できる。


ただ、どうもこの人の書くことは,荒いところがある。えぇっ!?と思うようなことが書いてあっても、その根拠となるものが明示されていないので確認することもできない。たとえば、紙ゴミがリサイクルされるようになって,水分の多い生ゴミの比率が多くなったため焼却場ではゴミが燃えなくなり、重油をかけて燃やすようになった、という記述がある(p.12)。以前からよく人の口に上る話ではある。むろん根拠は書かれていない。そういう例が昔あったということなのか、現在の話でどこでもやっていると言いたいのか、わからない。また、電磁波の害の話(p.43)もどうも怪しい。小児白血病との関わりに関するWHOの報告はきちんと読んでいるとは思えないし、その後の電場に関する説明も「?」である。


ゴミ焼却に重油を使うという件については、以前学生から質問があったので少しwebを調べてみたことがある。質問が寄せられると見えて、休止していた炉に火を入れるときに重油を使うがふだんは使わない、と掲載しているゴミ処理施設があった。そういう施設があるというだけで反証になるとは思わないが、炉の構造を見ても、ゴミはいきなり火にくべられるのではなく、奥で燃えるゴミの熱で手前のゴミが徐々に乾燥して、それから順次コンベアで奥へと送られていく仕組みになっている。その程度の工夫は当然してあるわけで、少し紙ゴミが減ったからといって状況が変わるとは思えない。第一、無限に続くゴミ焼却にいちいち重油などかけていては、あまりにコストがかかりすぎるではないか。そんな不経済なことをやっていられるわけもない。


私は、基本的には田中優氏のメッセージに賛同したい。それだけに、こういう雑ですぐに突っ込まれそうな記述が混じっていることを残念に思う。こんなのがあると、他の部分も信用されなくなってしまう。メッセージは簡潔で分かりやすくなければ伝わりにくいが、だからといって不正確なことを言っていいわけではない。いろいろと忙しい人なのだろうが、もう少し丁寧な本を書いてほしいと思う。