奇跡のリンゴ

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
石川 拓治 (著), NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班 (監修) 、幻冬舎 (2008/07)


無農薬でリンゴ栽培を成功させたひとりのリンゴ農家の話。テレビでも取り上げられて有名になり、その後びっくりするほどいろんな媒体で取り上げられている。

書かれているのは、慣行農法から無農薬に移行して何が起こり、そしてどうやって復活にたどりついたかの壮絶な過程。その壮絶さに多くの人が感動するのだと思うが、こういうのにそんなに多くの人が感動するのか、ということにむしろ軽い驚きを感じる。単純に無農薬にすると、害虫や病気でリンゴがまったく収穫できなくなるだけでなく木がほとんど枯れてしまうが、自然農法的に除草もせず土を豊かにしたら徐々に復活したとのこと。いちおう農学部で害虫の勉強をしていた身としては、そんなに不思議な展開ではない。ただ主人公の木村氏が、困難な状況の中で自力でそこにたどりつく執念に、読者は拍手を送るのだろう。
主人公はきわめて分析的なアプローチをしていて、自然農法についても妙に哲学的になったりしないのでそのへんは好感が持てる。ただ、この話をとりあげるいろいろな他のメディアはそうとは限らない。結果だけを見て、人為を排するような方向に話を持って行きそうで、なんとなく気がかりではある。