すごい進化

すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く (中公新書)

(鈴木紀之著 中公新書 2017年)

この手のタイトルはこのごろ流行りだが、なんだかなぁ、とちょっと引きつつ読んでみたら、中身は進化生物学ど真ん中。それもわりとなじみのある話が多いなと思ったら、著者は私と同じ研究室の出身なのだった。

 自然選択によって完璧に作り上げられた見事な進化の例、ではなく、むしろいい加減で不合理で不完全に見える現象が実は極めて合理的な進化の結果なのだ、という例を中心に据えている。そして、従来信じられてきた仮説がどうやら間違いで、まったく別の角度から新たな仮説を作り上げていく研究過程の醍醐味を、かなりわかりやすく書いている。まったくの素人がどれだけ面白く読めるのかはわからないが、最近不勉強な私は興味深く読むことができた。

 とくに目を見張ったのは、性の進化に関する川津の新説だった。なぜオスがいるのか、なぜ無性生殖が可能なのに有性生殖がメジャーなのかという進化生物学最大の問いに対する、まったく新しいアプローチ。説明を読む限り、目から鱗で納得できるものだった。まだ広く受け入れられていないようだが、著者が推すだけのことはあると思った。

それで寿命は何秒縮む?

それで寿命は何秒縮む?

(半谷輝己著 すばる舎 2016年)

損失余命、つまりある物質などの毒性によってどのくらい期待寿命が縮むか、という尺度を使って、リスクの相対的な大きさを冷静に考えようよ、という本。以前から、環境の授業では損失余命を紹介して、化学物質汚染によるリスク(の小ささ)について話をしているので、個人的には納得の内容。で結局、タバコのリスク(1本吸うたびに12分の短縮)に比べれば、他は加工肉や残留農薬はもちろん放射線被曝だってほとんど問題にするようなものではない、というのも納得。

 もちろん、それで安心するかどうかはあなた次第ですよ、ということを著者は繰り返す。「安全」(の度合い)は客観的に数字で表せるが、「安心」は主観的なもの。誰も他人に強制はできないので、自分で折り合いをつけるしかない。その折り合いをつけるのに、損失余命というモノサシがひとつの目安になるといいね、ということだ。

 著者は「地域メディエーター」という肩書きで活動している。不安にかられた地域住民と専門家の間の知識・認識のギャップを埋める活動を意味するらしい。サイエンスライターやサイエンスインタープリターでは少しニュアンスが違うので、ということだ。肩書きは何にせよ、そうした役割をより多くの人が担えるようになる必要があるだろう。

 

幼年期の終わり

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

アーサー・C・クラーク著 早川書房

Kindle版を読了。

SFの古典として推薦された。原作は1953年とこれまた古い。

 突如宇宙船が到来し、人類は宇宙に唯一の知的生物でないことを知る。力で抑圧するわけではないが世界に目を配り人間同士の対立を阻止する宇宙人。圧倒的に進んだ力を目の当たりにした人間の社会がどう変化するのか。そして宇宙人はなんのためにやって来たのか。

 先述した春アニメ「正解するカド」の結末が見えなかったときに、この作品と同じようなオチではないかと推測する声があったが、たしかに通ずるものがある。結末は全然ちがったが。

 これもまたその後の多くのSFに影響を与えた作品なのだろう。おもしろさはまあまあと言ったところだったが。

残念なるカド

この前、春アニメの「正解するカド」がメチャクチャ面白い、と書いた。

12回で終わって、すでに各所でため息と怒号が飛び交っているが、非常に残念な感じで終わった。前半期待させられただけに、後半のがっかり感ははんぱない。

噂では、25回の予定だったのに12回に縮められたとかなんとか。たしかにいろいろすっ飛ばした感はある。

なんにせよ、楽しみがひとつなくなって寂しくなった。

ソーラー女子は電気代0円で生活してます!

ソーラー女子は電気代0円で生活してます!

(フジイチカコ著 カドカワ 2017年)

マンガで書かれているので20分で読了したが、また読み直したくなる。

 震災後に省エネ生活に慣れて契約アンペア数を次第に下げていき、電気代が安くなるのが楽しくてついには電気の契約を解除した、というマンション一人暮らしの女性の話。決して「温暖化防止のため」とか「原発反対!」とかいった肩肘張ったスタンスではなく、楽しんでいろいろ工夫している様子に好感が持てる。冷蔵庫を使わないのはハードル高そうだな、とか、大阪の夏にエアコンなしは無理!とか、思うところはあるが、解除まで行かなくてもいろんな工夫をして節約する生活を楽しみたいな、とうらやましく思う。一人暮らしだったら自分でもやってみたいところ。

キロワットアワー・イズ・マネー

キロワットアワー・イズ・マネー ~エネルギー価値の創造で人口減少を生き抜く~ (いしずえ新書)

(村上敦著 いしずえ新書 2014年)

 大学のドイツ短期研修プログラム「ヨーロッパエコスタディ」でも何度かお世話になっているフライブルク在住の村上敦氏の本。タイトルやカバーのあおりを見ると、自然エネルギーで地方を活性化しましょう!という、わりと気楽で前向きな印象を受けるが、読んでみれば全然ちがう。このままいけば2050年には日本の地域経済は崩壊し生活インフラも壊滅し地方の半数は消滅するのが避けられないということを、本の半分以上を使って強調してある。それは、これまでさんざんいろんな地方でいろんな人の前で講演してきて、いくら言ってもこの人たちは自分の置かれた状況がわかってない!と実感したそのいらだちを如実に表しているものだ。太陽光発電補助金とか電気自動車の公用車とか、そんなものあなたの街の役には立たない(「おわりに」より)といった指摘に耳の痛い自治体は多いのだろうと思う。この本は自然エネルギー普及の本などではなく、地方経済についての本なのだ。

 過去数回、ヴォーバンの案内をしてもらったことがあるだけだが、もっとじっくりお話をうかがうべき方だということがようやくわかってきた。もったいないことをしてきたのだな。Facebookでフォローさせていただいているが、いろいろ刺激的だ。

彩生館まつり

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6月25日、和泉市のリサイクルプラザ彩生館の20周年を記念したイベントに参加した。

「ソーラークッキング お日さまをみんなの力に」

と題して90分弱のお話しをさせてもらった。

 あいにく当日は予報から確実に雨ということで、実演は最初からあきらめ、できるだけいろいろなクッカーを紹介して、参加者数によっては「ききょう」の作成をしてもらおうと思っていた。

 幸い雨はそれほどひどくなく、ゼミ生の助力も得られたので、ありったけのクッカーを運び込むことができた。ひとつひとつ特徴や使い勝手を紹介しながら、ソーラークッキングの基本的な原理や考え方を説明。見栄えの派手な高価な既製品に目を奪われるが、実は安価に十分使えるものが作れるということを知ってもらった上で、ガスレンジ用下敷きシートを使って「ききょう」を即席で作成してもらった。手間は大してかからずあっという間にできてしまったが、さあ何人の方が実際に使ってくださるかな。使ってみないと正直太陽のパワーを実感しにくいとは思う。