キロワットアワー・イズ・マネー
(村上敦著 いしずえ新書 2014年)
大学のドイツ短期研修プログラム「ヨーロッパエコスタディ」でも何度かお世話になっているフライブルク在住の村上敦氏の本。タイトルやカバーのあおりを見ると、自然エネルギーで地方を活性化しましょう!という、わりと気楽で前向きな印象を受けるが、読んでみれば全然ちがう。このままいけば2050年には日本の地域経済は崩壊し生活インフラも壊滅し地方の半数は消滅するのが避けられないということを、本の半分以上を使って強調してある。それは、これまでさんざんいろんな地方でいろんな人の前で講演してきて、いくら言ってもこの人たちは自分の置かれた状況がわかってない!と実感したそのいらだちを如実に表しているものだ。太陽光発電の補助金とか電気自動車の公用車とか、そんなものあなたの街の役には立たない(「おわりに」より)といった指摘に耳の痛い自治体は多いのだろうと思う。この本は自然エネルギー普及の本などではなく、地方経済についての本なのだ。
過去数回、ヴォーバンの案内をしてもらったことがあるだけだが、もっとじっくりお話をうかがうべき方だということがようやくわかってきた。もったいないことをしてきたのだな。Facebookでフォローさせていただいているが、いろいろ刺激的だ。
彩生館まつり
6月25日、和泉市のリサイクルプラザ彩生館の20周年を記念したイベントに参加した。
「ソーラークッキング お日さまをみんなの力に」
と題して90分弱のお話しをさせてもらった。
あいにく当日は予報から確実に雨ということで、実演は最初からあきらめ、できるだけいろいろなクッカーを紹介して、参加者数によっては「ききょう」の作成をしてもらおうと思っていた。
幸い雨はそれほどひどくなく、ゼミ生の助力も得られたので、ありったけのクッカーを運び込むことができた。ひとつひとつ特徴や使い勝手を紹介しながら、ソーラークッキングの基本的な原理や考え方を説明。見栄えの派手な高価な既製品に目を奪われるが、実は安価に十分使えるものが作れるということを知ってもらった上で、ガスレンジ用下敷きシートを使って「ききょう」を即席で作成してもらった。手間は大してかからずあっという間にできてしまったが、さあ何人の方が実際に使ってくださるかな。使ってみないと正直太陽のパワーを実感しにくいとは思う。
月は無慈悲な夜の女王
Kindle版読了。
読んでおくべきSF傑作のひとつとして推薦されていたので、何気なくKindleで見つけて読んでみた。今調べて驚いたが、1965年に連載されていたという半世紀前の作品なのだな。まさにクラシック。しかしそんな古くささはまるで感じなかった。
ひそかに知性を獲得したコンピュータの支援を受けながら、地球連邦の搾取から独立を目指す月の植民地の人々の戦いを描いている。月での独特な生活様式、反政府活動を組織化していく過程、そしてクーデターと反撃と結末への活劇、どれも詳細で活き活きと書かれていて読み応えがあった。
地球連邦の搾取と宇宙植民地の独立といえばまさにガンダムではないか。きっとこの古典はその後の多くのSF作品に多大な影響を与えてきたに違いない。
ねずみに支配された島
(ウィリアム・ソウルゼンバーグ著 文藝春秋 2014年)
広島大学出張中に読了。
前著「捕食者なき世界」がすばらしく面白かったソウルゼンバーグ。この本も期待に違わず大変面白く一気に読ませてくれた。
世界中の島々で繰り返される、外来動物の侵入と在来鳥類等の大量死。それに気づき、滅び行く生物たちを救うために必死に抗う人々の終わりなき苦闘の物語である。主な舞台はニュージーランド、それに加えアリューシャン列島、カリフォルニアなど各地に渡る。外来動物として問題になるのは主にねずみだが、他にもネコ、キツネなども登場する。何千万羽という鳥の大群が、わずかな数のネズミの侵入で絶滅に向かう現実が描かれる。多くの場所で手後れなのだが、いくつかの島でネコやネズミを駆逐して絶滅しかかった鳥を回復させることに成功する。しかし、一箇所で成功しても別の場所で同じやり方が通用するとは限らないし、新たな障害も発生する。関係者の苦悩が切実に感じられる。
外来種問題を書いた本は山ほどあれど、これだけ読ませる本はなかなかない。現場で必死に苦闘する人々に焦点を当てて、彼らの物語として描いている。外来種問題はそれなりに知っているつもりだったが、ネズミと鳥のことはもともとあまりなじみがなかったので勉強にもなった。
バイオマス・ニッポン
(小宮山・迫田・松村編著 日刊工業新聞社 2003年)
積ん読解消シリーズ。
今さら、だった。2002年に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」をわかりやすく解説したもの、という位置づけの本。それから15年経って、その総合戦略がどういう風に進んでどう終わったのか、もう結果は出ているはずだ。それなりに各地で進められたが、日本再生などというような目覚ましい成果が出ているとは思えない。いくら使って、どれだけの成果を挙げたのか、そういう総括は…しないんだろうな。
ざっと流し読み程度に読んだが、この段階でも勇ましいかけ声とは裏腹に、バイオマスを中核的に取り入れるのはかなり難しい話だということは読み取れた。国のかけ声で一斉に取り組んで、多くが失敗して淘汰され、今残っているのは条件が良く堅実なところだけなのではないだろうか。それでいいんだと考えるべきなのか。
地球の破綻
(安井至著 日本規格協会 2012年)
積ん読解消シリーズ。
1972年にローマ・クラブが出した「成長の限界」は、その当時にできる未来予測を示し、その展望で衝撃を与えたという。それから40年経ち、状況も変化し、また予測の精度も変化したことで、改めて21世紀の成長の限界を検討してみたのがこの本である。
地球が破綻に向かっていることは誰の目にも明らかなような気がするのだが、本気でそう思って心配している人は実は少ないのかもしれない。だからこそ一国の首相が相も変わらぬカビ臭い「成長」という言葉をお題目のように唱えて、五輪だ万博だと浮かれているのだろう。
いろいろなことが破綻に向かっているが、劇的な改善がなされなければならないのが、エネルギー、元素(主に金属資源)、生物多様性の3つであると著者は言う。まったく同感である。人口と食料の問題についてはなんとかなるだろうと著者は考えているが、私自身はやや懐疑的である。
環境問題を教えるようになって、最初に参考にさせてもらったのがこの人の著書やウェブサイトだった。基本的なスタンスやバランスのとれた書き方がしっくりくる。勉強になる一冊だ。